ご案内
通貨は、それを利用することで利便性が得られるという期待感によって選好される。
そしてその結果が期待どおりであれば、さらにその利用意欲が高まる。
ポンドはこうして世界中の貿易商にとって支持され、利用されてその結果として「基軸通貨」という概念が生まれることになった。
そしてポンドは貿易決済だけでなく投資通貨としても利用され始める。
これが通貨の金融力である。
利便性におけるアナロジーでいえば、通貨選好は言語のそれ(即ち英語の流通性)にも類似するものがあるが、多角化する金融取引を支える市場と技術が英国に存在したことも忘れてはならない。
その英国のポンドに対して、どのように大西洋の向こう側のドルが台頭してきたのか。
それは、1919年の第1次世界大戦終了、1929年の世界大恐慌、1939年の第2次世界大戦勃発、とサイクルで大事件が起きた別世紀前半の英米関係とともに説明されねばならないだろう。
最大の要因は、米国が第1次世界大戦を機会に純債権国に転じたこと、その反面で英国など欧州諸国が対米債権を大幅に取り崩すことになったことである。
経常黒字と長期資本支出の増加は、米国の通貨力増強への大きなステップとなったことは間違いない。
だが、米国への投資・投機的資金の流入もドルの地位を押し上げる結果となった。
その背景にあるのが、第1次世界大戦後の混乱で変動相場制が続くなか、1925年に制度化されたポンドとドルの相場固定化である。
マルクやフランなど欧州の主要通貨がインフレで減価する一方、米国はいち早く1919年に金本位制に復帰し、英国はこれにやや遅れて1925年に復帰する。
その結果、ポンドとドルの「基軸相場」が生まれたのである。
この2国間の通貨レートの安定性が、資本市場の磁場が欧州大陸から英米間へと地理的に移動する動きを促していく。
その2大通貨の関係式こそが、その後の世紀にまで連綿と受け継がれる「大西洋間の国際金融」を育んだ土壌だったのである。
四世紀後半から別世紀前半にかけて注目すべきは、英国の経済力と金融力の没落が同時並行的でないことである。
貿易決済に備えた「ロンドン・バランス」と呼ばれる非居住者によるポンド建て預金勘定は健在であった。
金融の中心地は、単純に大西洋を越えたわけではなかったのである。
だが、米国資本輸出の増大やニューヨーク手形市場の活性化などを通じて、ドルの影響力が高まるのはもはや必然であった。
さらに、インドの貿易力弱体化や対米債権の取り崩しなど、英国金融にとっての逆風は強まっていった。
ポンドや英国市場が岨世紀の力を維持することはもはやできなくなっていた。
実質的にポンドの凋落を決定付けたのが1931年の金本位制からの再離脱であり、また政治的にポンドが主役の座から引きずり下ろされたのが1944年の B体制の成立であった。
このポンドからドルへの基軸通貨の移行は、経済と金融における中心が英国から米国に移ったことを裏づけているが、それは一方で「1国1通貨」という概念を社会に定着させるものでもあった。
この1国に独自の通貨が存在するという考え方は、太古の昔からあったとは言い難い。
そもそも欧州における近代国家の概念は、1648年のウェストファリア条約以降に固まったものである。
ドルの覇権確立は、「英国ポンド」から「米国ドル」という構図を、あらためて通念として現代社会に浸透させることになった。
英国が没落して米国が台頭したから基軸通貨もポンドからドルへ変わった、という印象は今でも強いが、そもそも国家と通貨とは同一ではないし、金本位制のもとでの自国通貨とは、金への党換性にもとづいて存在するにすぎない仮想概念である。
それが国家の経済力や金融力を象徴する通貨として認知された背景には、欧州の各国が的世紀以降ナショナリズムの昂揚や中央集権国家の建設への手段として通貨主権を利用してきたという事実もある。
そもそも金貨や銀貨が流通する社会においては、自国通貨という考え方は現在のように一般的だったわけではない。
週世紀にはフィレンツェのフローリン金貨が、13世紀にはベネチアのドゥカード金貨が、国際通貨として流通していた。
大航海時代を迎えるとスペインのメキシコ銀貨がその座を奪い、肥世紀には中東やアフリカでオーストリアのマリア・テレジァ銀貨が交易に利用されるようになる。
そして四世紀には英国の S 金貨が流通の王座に居座ることになった。
ちなみに日本が「円」を法的に制定し金貨を発行したのは1871年であるが、当時の海外との交易にはほとんどメキシコ銀貨が利用されていた。
こうした国家主権を背景とする各国の通貨発行が徐々に「1国1通貨」の考え方を定着させていくことになる。
実は、別世紀に英国から金融覇権を奪取する米国も、岨世紀半ばまではメキシコ銀貨や、英国の S 金貨、ブラジル金貨などさまざまな国の貨幣が流通する社会であったといわれる。
米国が独立してすぐに「ドル社会」になったのではない。
ドルが法定通貨となったのは1861年のことであり、FRBが設立されたのもそれから約半世紀も経過した1913年であった。
だが米国は、先行する英国を範例として通貨主権がいかに大きな力をもつかを学んでいた。
19世紀に工業力を開花させた彼らは、別世紀には通貨主権を明確に打ち出して金融の基礎力を養っていく。
「強いドルは国益にかなう」という今日の巧妙なレトリックは、まさにこの国家的プロジェクトの過程から生まれたものだということができるだろう。
なる。
企業の株式や社債、融資などに投じられた資金はその瞬間に資本となり、雇用や設備投資に充てられて増殖過程に入っていく。
それは自国の産業である場合もあるし、海外の産業に投じられることもある。
いずれにしても、資本は企業の成長を通じて増殖することにたとえば米国は、自国産業での資本増殖を円滑にするために、米国内での資本市場を育成・整備してきた。
現代の米国市場は、ドルという通貨に加えて資本形態の多様性、プライシング、ヘッジング手段、流動性、ルールの透明性などの面において卓越した機能を有しており、世界最大の資本市場といってよい。
アジア市場の独自の発展は可能か一方で、海外企業に投資する場合は、海外に同じように資本市場がなければならないが、すべての海外諸国に米国と同等に整備された資本市場を求めるには無理がある。
その役割を担ったのが、英国のシティであった。
そのユーロ債市場は、世界中の政府や自治体、企業などが資金調達を行う国際金融の場として的世紀以降の伝統を守っているのである。
つまり現代の国際金融は、米国と英国が暗黙の合意のもとで、ある程度の「棲み分け」を行っているということができるだろう。
それは岨世紀以降、大西洋両岸に蓄積した資本を増殖させるための有効な方法論でもあった。
このシステムを、日本などの新興勢力が利用し始める。
英国市場を資金調達に、米国市場を資本運用に使うという「使い分け」である。
だが、日本だけでなく中国や韓国、台湾、そしてインドなどアジア地域の資本蓄積が進むにつれて、この大西洋システムの位置付けがやや変化してくる。
アジアに蓄積された資本が欧米に流れた末に、アジアへ逆流入するという現象が顕著になってきたのである。
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